私の本業である医師として、旅の医学について述べてみたいと思います。
旅に関するブログは、私に限らずみなさんもご存知のように「旅行記」であったり、「感想」であったり、それぞれ科学的な根拠はなく、主観が多いものです。それは当然です。旅とはその文化を体感し、肌で感じに行くもの。感じ方が人それぞれ違うのは当たり前です。多くの方はそう思うと思います。
しかし旅行医学となると話は別です。科学的根拠を含めながら、私も専門は旅行医学ではありませんが、日本旅行医学会認定医として少しまとめようと思います。自分のためにもね。ここではあくまで海外旅行に行かれる際のことを前提にお話ししますので、ご容赦ください。
旅先で亡くなる理由は?
多くの方は、旅先での事故を気にされると思います。航空機・船・車etc・・・。それは誰でも怖いものですし、殺人なんて絶対に会いたくありません。ましてや言葉の通じないところで熱でも出して病院に行かなきゃいけないという騒ぎになったら・・・もう多くの方はパニックだと思います。うちの妻も「旦那が医者で旅行での心配がひとつ減ってると思う」とよく言っていますが、旅先での病気は怖いものです。
ところが、「旅先で死ぬ」ということだけを考えると、最も恐ろしいものは事故でも殺人でもありません。そうそれは病気です。言葉の通じないところで熱でも出して病院に行かなきゃいけないという騒ぎになったら・・・もう多くの方はパニックだと思います。うちの妻も「旦那が医者で旅行での心配がひとつ減ってると思う」とよく言っていますが、旅先での病気は怖いものです。
しかしその病気とは、いわゆる「外国でしかかからない病気」でしょうか?いいえ、実はそうではないのです。
外務省海外邦人援護統計というものがあります。旅行者や、現地の駐在の方を含めて外国でトラブルに会われた方を集めた統計です。必ずしも旅行者だけに当てはまるわけではないのですが、ちょっと参考にそこで書かれていることを取り上げてみます。全世界のtotalです。(外務省 領事局 海外邦人安全課 2013 年海外邦人援護統計 より)
①死亡者数・・・601人
②疫病による死亡者数・・・422人
つまり、海外で亡くなった方の実に7割は病気で亡くなっています。これを多いと思いますか?病気、つまり事件や事故・自殺や犯罪ではないという意味です。
外務省の報告ではここまで。この統計は、あくまでも外国にいる日本人に焦点を当てている報告ですが、非常に興味深いことに、実はたとえ旅行者でもあっても実はほとんどの方は病気で亡くなっていると報告されています。そのことは、旅行医学の教科書にも載っているんです!(The travel and tropical medicine manual より)
じゃあ結局何の病気で亡くなっているのか?
さらにその中で、どんな病気が原因か?ここが実はポイントです。
海外で病気で亡くなった方の半分~7割は心血管疾患、つまり脳卒中や心筋梗塞などの心臓や血管の病気で亡くなります。
しかもすごいことにほとんど先進国では同じような割合なんです。日本で行われた、日本旅行学会と旅行会社が独自に行った調査でも、ほぼ同様の結果が報告されています。
もちろん、日本人は脳卒中が欧米諸国に比べて一般的に多く、欧米人では心筋梗塞・狭心症が多いという背景の違いがありますが、おなじ血管の病気としてとらえると、少なくともアメリカでも日本でもヨーロッパでも最大の死亡理由は血管の病気によって亡くなっているのです。
つまり、世界中で猛威を振るうマラリアやデング熱によって亡くなる方よりも、はるかに多くの方が心臓や脳血管のトラブルで亡くなっていることになります。
じゃあ俺も心筋梗塞になるの?
そのように思った方もいるかもしれません。海外旅行に行くと、心筋梗塞になりやすくなる・・・っていうような、そういうことではないので安心してください。おそらくこの統計の最大のポイントは「若い人よりも年配の人に発症率が高い」ことだと思います。若い何の危険もない人がいきなり心筋梗塞を発症するということは医学的に非常に珍しいことです。やはりどうしても20-30代よりも50-60代の方のほうが脳卒中や狭心症が多いのが事実です。年配の方がたくさん海外に行くようになったことと関係があるのかもしれません。
要するに国内であっても外国であっても、心筋梗塞だとか脳梗塞だとかは生じえるわけですし、日ごろからそういったことはないか、リスクはないかをきちんと自分自身でも把握しておくことは大事なことだということです。健康に対する心構えは旅行に関係なく非常に重要であることはご理解いただければと思います。
そこでおすすめなのは、あらかじめ自分の疾患や体の状態について記載した本(ノート)を持ち歩くことです。
自己記入式安全カルテ [成人用]という本があります。これは英語がわからなくてもご自身の体の状態・現地の医療事情・アクセスの仕方なども含めて書いてあるので非常に便利です。一度手に取ってみてください。
ちなみに感染症、つまりマラリアなどで亡くなる方は世界中でも数%未満といわれています。その辺はまた後日。