アフリカに旅をしたことに関連して。アフリカのみならず世界を旅するときに、感染症というものにはいつも注意を払っておく必要があります。特に感染力の強いものや、「空気感染」するような人々をパニックにさせるような疾患にはかかわりたくないと皆さんお考えだと思います。そんな病気が、近くにいるのは想像したくないでしょうし、ましてや密室なら・・・とお考えになるかもしれません。子連れなら子供たちにも大変なことが起きたらどうしよう・・・。
でも旅行中に、誰もが密室になってしまう空間があります。それが飛行機の中です。
飛行機の中の換気はどうなっているのか
数年前、エボラ出血熱の騒動をみなさん覚えていますでしょうか?わが国ではさほど混乱はなく、対岸の火事・・・といった状況でしたが、まさにパンデミックというにふさわしいほど世界は混乱していました。日本では幸い国内での発症確認はありませんでしたが、何人かの方が隔離の上感染の有無をチェックされていたのは覚えていらっしゃる方も多いかもしれません。特にそのうちの1人の方が近医を受診されていたとのことで、医者の間でも話題になりました。
そんな中、「飛行機の中で感染が伝染する」というような報道もありました。実際はエボラ出血熱は空気感染せず、接触感染が主体と今までの報告ではされています。パンデミックのようなことになるのはその患者さんの下痢がとびちってみんな触ってしまったとかなどという、ある特殊な条件下だと思いますので、実際にはそんなことはないのではないかと思います。
実際に、2014年に米国でエボラウイルスに罹患した医療従事者2人が、潜伏期間中に飛行機に乗ってしまった事例があったのですが、CDC(米国疫病予防センター、世界最高の感染症センターの一つ)の報告では前後・左右に座っていた方を含めて飛行機の同乗者の発症はなかったと報告されています。
さて、そんなときふと思ったんですが。
飛行機内の換気ってそういえばどうなっているのだろう?
ということでした。調べてみると、驚くことになんと
その答えが医学の教科書に書いてあった
んです!なので皆様にお伝えしていこうと思います。
医学の中でもちょっと特殊な熱帯旅行医学の教科書的な本が今回の参考文献です。
Elaine C.Jong, Christopher Sanford :The travel and tropical medicine manual.
※注:現在は第5版が出ているそうですが、手元には4版しかありません。したがって多少情報が古い場合はご容赦ください。
換気システムの簡単な流れ
非常に簡単に言うと空気の半分を機内からの再利用、半分を外気からの空気を特殊な機械を使って圧縮して利用しているらしいです。つまり常に送られてくる空気の半分は機内の再利用なのです。そして、「飛行機の機内は普通の家庭やビルより圧倒的に換気されている状態」にあるそうです。
つまり、飛行機の中は2~3分に1回すべての空気が入れ替わるようなつくりだとのことですが、普通の家庭では家の中の空気がすべて入れ替わるのは10分以上かかるそうで、ビルや家庭に比べて圧倒的に空気の入れ替えが頻回に行われているそうです!まあ確かに飛行機乗ってるとゴーーーって換気の音?するよね。
出典:https://www.howitworksdaily.com/how-do-cabin-air-systems-work/
英語で図示されておりますが、要するに、外から取り込んだ空気を適温に冷まして利用するとともに、機内から循環させてきた空気をフィルターに通してきれいにしたやつも利用し、それらがだいたい50%ずつになるように調整して飛行機内の換気システムは動いているとのこと。へえ。
あと、外から空気を集めるのって、エンジンのところから空気って圧縮して集めてくるらしいです!それもびっくり!
でも!
再利用している空気が半分もあるならウイルスとか蔓延しちゃうじゃん!と思いませんか?
換気されているだけじゃ怖い!と思われますか?
私も思ったんですが、じゃあ換気されているだけなのか?といわれると、それもまた違うようです。半分は機内からの再利用と書きましたが、その再利用される空気はHEPAフィルターを通してきれいになっているらしいです。
HEPAフィルターってなんですか?聞いたことない!と思われるかもしれません。でも、これ空気清浄機につかわれているんです。
掃除したりすると、「これは洗わないで!」とか書いてあるやつですね。写真はSHARPのものですが、大きな空気清浄機にはこれが搭載されているものも多くあります。つまり、飛行機内の空気は基本的に空気清浄機を使って再利用しているということだそう。よく空気清浄機フィルターには「99.9%除菌!」みたいなことを書いてありますが、ある一定以上の大きさの粒子をほぼ100%除去できることは実験からわかっており、それを飛行機にも利用されているのだとか。もちろん小さなウイルスなどは除去できません。
そして、客室内には上から送られてきて空気が循環していきます。ここでも驚くことに、上から流れてきた空気はほぼ同じ列の席の下から排気されていくため、前後の方向の気流(層流というのでしょうか?)はほとんど発生しないように設計されているのだとか!!!もちろん人の流れなどでも気流は変化していくため、あくまで理論のようですが、そういった空気汚染が前後に行かないような配慮がなされているそうです。興味深い・・・。すげえな飛行機。
これは、ボーイング767の事例だそうですが、基本的に同じような作りな様子。
まとめると、ある一定以上の大きさの粒子も除去可能とされているフィルターも搭載されている上に、機内の空気の流れを管理し感染源があったとしても、遠くの席まで広がらない仕組みを採用しているとのことで、かなり感染に対して気を配っているようです。(気を配ってそうなっているのか、結果的にそうなったのかは知りませんが・・・。)飛行機内が乾燥していることも、病原体が元気に活動する抑止力になっていますしね。密室だからといってバスや電車といった他の公共機関と比べて、飛行機がとても怖い!というわけではないようです。
とはいえ、それでもパンデミックを起こすようなウイルスは小さな粒子も多く、また空気感染より大事なのは接触感染であることも多く、実際に以前パンデミックで大騒ぎになったSARSやインフルエンザなどでは飛行機内で感染したと思われる発症が報告されています。この仕組みがあるからといって飛行機の感染症を防ぐことはできません。手洗いなどの徹底や、調子がすぐれないときには飛行機に乗らないといった対応も必要かと思われます。
にしても、飛行機の換気がこんな風にできているとは驚きでした。面白いですね~。なんとなく今まで乗ってきてごめんなさい設計してくださった方( ;∀;)
日本旅行医学会
旅に関連して、ちょっと宣伝しておこうと思います。私の仕事は内科医であり、旅好きが高じて自分のため・妻のため・子供たちのためと思って、「旅行医学」なるものをかじっています。もちろん専門ではないのですが、旅行医学の知識を扱う「日本旅行医学会」というものがあり、それに加入しています。また、認定の資格も持っています。
この医学会、面白いことに医療者だけでなく一般の方も参加できます。実際に出張の多いサラリーマンやキャビンアテンダントの方なども入会されていて学会会場などでも見かけます。もしご興味のある方はぜひどうぞ!
へえ~って思ってしまいましたが、さらなる改良を目指して大きく注目された高校生もいるようで。すごいですね。
Meet the teen who just won $75,000 for inventing a system to keep germs from spreading on airplanes
参考文献(羅列だけですみませんがご容赦ください)
1)Elaine C.Jong, Christopher Sanford :The travel and tropical medicine manual.
2)https://aviation.stackexchange.com/questions/1672/how-effective-are-modern-aircraft-at-clearing-smoke
3)https://www.quora.com/What-should-you-do-if-youre-on-a-flight-with-someone-who-has-a-highly-contagious-disease
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